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オシロスコープ (HP54510A) のスィッチング電源を修理

 初めに・・・
かなり厄介な作業でした。この修理が成功した理由、それは中断、一休み、脇道・道草などの効果があった。挑戦してからダメなら諦めると。実際にいろいろ、やれる事から手を付けていくと希望が、「直せるかも・・・」と良い兆しが見えます。もし修理不能でも代替案が見つかるかも。すべてが徒労ら終わったとしても体験し、学んだものは残るでしょう。

 1991年頃のディジタル・オシロ HP54510Aを入手から半年、その間ユニークで高性能、いろいろ興味深い体験でした。自分なりの取説作りに励んでいた最中、突然何も表示しなくなった。最初の一瞬だけCRTの中心に緑色の小さいリサージュか何か出たような。以後はAC電源をオン・オフしても二度と起動しません。
  (HP: Hewlett Packard社)

 このオシロスコープは奇抜なユーザーインターフェースに驚きの連続。それでも「電源スィッチは後部パネルでパイロットランプも無し」には賛同しかねる。
 HPの取説(PDF)にあった「何かボタンを押しながら電源をオン」、このやり方は既にテスト段階でフリーズした時、実行するも効果無し。どうやらソフトが更新された個体です。今は緊急事態「藁にもすがる」の心境、この方法で成果無し。多分、顔面蒼白 (苦笑)

 しぶしぶケースを開け内部点検。外箱のネジの頭が特殊で星形のドライバーが要る。
全体の構成 (内部の画像は後半に)

 ・巨大な主基板 (以下の部分を除くディジ・アナ回路すべて)
 ・ディスプレー(小型アナログ・モニター)
 ・電源部 (PC用の汎用品)
 ・キィーボードとロータリーエンコーダ、そして筐体

 最初は電磁偏向ブラウン管のヒーター点灯を確認、これで+12Vは正常だと判定。
冷却ファンも回っていた。
 入力アンプ、AD変換、制御と演算などが載った主基板は、私には論外。
残る電源部を単独でテスト。苦手な物、複雑で見るからに厄介なスィッチング電源・・・  ぎっしり詰まった高密度実装の両面基板は回路の解析を困難に。配線図も手に入りません。   それでも修理に取り組めた動機はHP製 DSO、史上初の1GSa/S達成、強い個性。
 前所有者から聞いたレストアの経緯と自分で目視しての推定は、保管環境の劣悪さで錆は見られるが、多分、稼働時間は少なかった? であれば動作に支障は無さそう。

 この様な内部を見ると、やはり「厄介なことになった」と 冷や汗。


 上の画像にある2次側のトランスを駆動する電力トランジスタはインサーキットのまま hFE (数値でなくTrとしての反応)を調べるとほぼ正常。

 先ず安全なAC100Vに接続しない観察から始める。ヒューズは切れていないか? 焼けコゲなど致命的な症状は? すべての電解コンデンサの形状変化、液漏れの有無・・・

 多分1990年あたりの製造。仕様は300~350W型、定常状態の入力は90~100VA 。
回路構成は現在のATX規格の電源ユニットに類似。相違点は2つで
 ・外箱の形状、現在の規格とまったく異なる、冷却ファンも外付
 ・2次側の電圧、+3.5V, +12V, -5.2V, -12Vなどを個別に安定化

 テスターの導通ブザー音を活用、パターンと部品の関連に意識を集中する。+/-の極性に注意。半導体を含む回路では極性を反転すると導通抵抗が大きく変化する。
 インサーキット・チェックは簡便な反面、限界もある。それでも、いきなりハンダを溶かし部品を脱着すると有害なことも。慎重に選択した物だけ、より厳密に判定するため着脱と交換へと進む。
 この画像は裏側のパターン、右が一次側入力系。左が絶縁された整流・平滑部分。境目にトランスがある。

左は出力コネクタ、中央に電圧テストピン、右にAC100V-IN

故障が明確な電源に、最初の通電をどうするか? 一般的なブレーカは遮断までの時間が遅くて使えません。
 ・即断型のヒューズ、その容量をギリギリにする
 ・スライダックで徐々に電圧を上げる

さらに、追加的な手段は
・AC100V用の100~300W型白熱電球を直列にアダプターを作る
・とにかく素早くAC100Vをオフにする手段を講じる

 最良の選択は深刻な故障を事前に発見する事。AC100Vを整流する回路で導通抵抗を見てダイオードの短絡は事前に発見すべきです。入力系のフィルター、整流器、コンデンサは交換した結果、不良ではなかった。
 AT/ATX電源の余剰品、PC本体の変遷で不要になった250~350W型が役立った。動作電圧の比較、新しい年代の部品を転用などに。


 相当の危険を伴うけれど通電試験も必要で、電力用半導体の耐圧低下はテスターなどで判定は困難です。深刻な事故はコンデンサの突然の爆発。そういうリスクに備えなければ電源の修理はできません。
 スィッチング式電源の試験にはダミー負荷が必須。HPの取説は「+5.2Vには 2Ω/25Wを接続」とある。自作の電子負荷は電流や電力の点で不向き。可変抵抗 (5Ω/10Wの)とホーロー抵抗 (10Ω, 12Ω)、ラジコン用可変抵抗(3.5Ω)を2個並列で5Vに約3A負荷。相当発熱するので1~2分に制限する。



 +5.2V系は多分、5~10Aの大電流なので非安定、ではなくフォト・カプラ経由で2次側から1次側へフィードバックして安定化。しかし、現状は少し異常で-12Vが-5Vくらいまで低下すると従属的に+5.2Vが低下。+5Vはディジタル回路の死命を制するのでオシロスコープとして全く起動しない訳。

 AC電源をオンの直後には正常動作に近い。数秒間で-12Vだけが低下する。奇妙なことに、電源オフで1日くらい放置すると、この現象が再現。しかし、短時間にオン・オフするとオンの直後から-12Vラインが-5Vくらいまで低下。何らかの時定数・・・であれば当然コンデンサを疑う。電源修理の原則論に従ってコンデンサ類を点検する。さすがHPの製品、日本製を採用! 何かの工夫?ケミコンは多数並列にしてある。1個で大容量だと信頼性とか経年変化に耐えない?
 寄生振動とノイズ等の抑制に小容量コンデンサに注目。数は少ないが、逆に障害点を探すのは厄介。

 30年も経過しているとハンダ・クラックもある。これはもう数が膨大・・・ しかし、スルーホール基板のハンダ作業は上質。数個の小コンデンサを脱着、とても面倒で驚く。

 一次側の整流部はダイオード4個分のブリッジと2個直列の平滑コンデンサ。この組み合わせ、AC100V側の片側を何処に接続するかで3通り、両波・半波・倍電圧を作れる

一次側の整流・平滑回路は単純ではない

両波のブリッジ整流で、ほぼ無負荷に近いと+140Vのはずが、+120Vと低い電圧。何故低いのか? これには PFC (電源の効率改善、詳細は省略)が関連するかも知れない。

 2次側で直流電圧の安定化に使われたICは、LM350, 317と79L05は3端子REG. TL431は電圧検出、LM339 (+電源のみで動作するQuad Op-Amp )と普通のトランジスタで構成。判明は型番のみ、用途不明で回路構成は依然不明のまま。
 制御回路の集中したサブ基板の+Vccは非安定の+17V ---> LM339 Op-Amp。他に-12Vから供給、79L05で-5Vに変換。


この基板は多数のピン・コネをハンダで固定。裏側に密接してアルミ冷却板があり点検も部品の交換も、ほぼ不能。ごく僅かに傾けての作業がやっとできた。

 問題が-12Vにほぼ集約されたときの発見、小電力(TO-220)トランジスタで -17Vから -12Vに安定化・・・ 奇妙なことに小信号ドライバのトランジスタが無い。可変抵抗も直結。B,C,Eの3端子をどのように配置しても安定化制御には位相が合わない。
 冷却板にトランジスタを押し付けているクリップを取って型番を読む。可変電圧3端子レギュレータ LM350T/Motorolaだった。代替品を入手、取り換えても同じように電圧はドリフトの末に -4Vくらいまで低下。その影響が+5.2Vにも及び+4.0Vまで低下する始末。なお、取り出したLM350Tをテストすると、こちらも正常らしい。

部品は取り換えた後の数値

 問題の-12V 、外部出力と別に電源内部の何処かで過負荷になっていないか? 抵抗計では1kΩで約12mA。電圧制御が沢山あるザブ・ボードに-12Vに接続した79L05がある。これも軽い負荷。
 が、79L05の動作から、-12Vが -7V以下になると出力(-5V)が保てず障害になると判明。それが+5.2Vに影響するらしい。
 LM350T単独トラブルなら電圧設定の抵抗類だけになる。電圧が低下する方向性と合う270Ωのハンダ・クラックは対策を施しても無関係だった。残るのは1.8kΩと VRの440Ωで、最も怪しいのは構造から可変抵抗。抵抗が通電で変化?それとも内部の劣化だろうか?だとしても電圧が低下する方向に合わない。何より再現するドリフトの謎が解けなくて振り出しに戻った・・・
 LM350の応用例を見ると電圧決定の抵抗(1.8kΩとVR 500Ω)に小容量のコンデンサを並列接続、動作の安定に必要とか。スィッチング式で動作周波数が50~80kHz位を考慮して0.1μFを追加してみると一見好調に見えた。だが、本体と組み合わせると-12Vが-5Vに低下。それでも一時ほぼ正常な画像を表示。やがて+5.2Vが4.0Vに低下してダウン。

 もう一度、電源の単体テストに逆戻り。何故か-12Vが-5Vに低下したまま。確認も兼ねて整流部のコンデンサに2200μFを追加して実験。先の0.1μFは付けると電圧の立ち上がりに10秒くらい遅延する。0.0012μFに変更。これで-12Vは正常になった。
が、安心できない。整流用コンデンサの古い方1000μF 2個並列を除去したら1個の底部に液漏れがあった。


LCR-T4での測定は
    1,007μF, 0.1Ω, 1.5%と 991μF, 0.11Ω, 1.4%で一見問題無い?
自作のC-Meterでは
   2個共に750μFに低下していた。
コンデンサには固有の問題がある。また50kHzとかの高周波では50~60Hzの場合とは様子が異なり、わずかな寄生インダクタンスも結果を左右するようです。比較的新しく正常稼働の実績のある 2,200μFを 2個並列にして更新した。



 今回は負荷テストを重視。+5.2Vに 2.8A(実測)、-12Vには0.9A 流して10分間経過を確認。ダミー抵抗の発熱はヘアードライアで空冷。何度か起動試験を行い、電圧ドリフトも観察。ほぼ問題無い。もう一度本体に組み入れた。

右側の電源はケースを開いた仮組の状態

 先ずHP3468A DMMを立ち上げておく(部屋のエアコンも確認)。20分後にオシロをスタート。今度は問題無さそう。電圧変動も0.1Vの桁は動かず。

 次の画像、可変定抵抗は周りに目盛りがあるけれど、位置決め用の指標が無い。90度以上回すと、元の位置への再現が困難。


ここで可変定抵抗の分解能が判明。 0.01Vの調節は難しい、1mVはまったく不能。
 約30分経過して実働で各電圧を厳密に設定。この間にオシロスコープとして波形と数値計測、ボタンを操作して応答を確認、ほぼ正常。それでも「万歳!」とはならない・・・

 重要な過負荷遮断異常電圧の抑制に関する2個の可変定抵抗。いずれもフォトカプラー経由で2次側から1次側へ制御される。故障対策の過程で、さんざん試行錯誤したので可変抵抗の役割と挙動を推定できた。今は正しい設定に戻すとき。
 もう1個、+5.20V用の可変抵抗も上記の2個と密接に関係がある。

・過負荷遮断のVRは制御部の小基板にありCCWで急峻に遮断する
・異常電圧の抑制用VRはフォトカプラに隣接しCWで緩やかに+5.20Vを抑制する
・+5.20V設定用は電圧テストピン列の右横。上の2個を設定後 "5.200" Vに設定

その挙動から限界ゃ偏移点の角度が判る2個の可変抵抗は、各々90度戻して幾らかの許容値を得る。資料が無い故、これで試験運用する。

 修理記録は後日読み返しても煩雑に感じるだけ。細部を理解している今、取説作りの良い機会だと思った。
 下図は試行錯誤の結果を可変抵抗類の配置と役割をまとめた。並び方が一致しない部品があり、調整用の抵抗と電圧読取点の位置が交差。電圧変化の方向も、CW(時計回り)と CCW(反時計回り)で揃ってない。


 実際は離れた位置にある可変抵抗、並べて見ると交差している。
-5.2Vと+5.20Vの2個はCWで電圧が上昇するが、その他はCCWで上昇とややこしい。


次の図面も推定で、正解か否かは不明。


 これらの図を見るとATX電源は代替品にならない。多分、オシロスコープの動作に支障が起きるだろう。徹底した改造を施せば、それも不可能ではない?

 オシロは数日後に何度か起動してみたが正常に動作している。前兆も無く突然停止した原因は、意外にもアナログ的な変化で、しかも再現性がありながら、オシロとしては全く起動しない・・・ +5.20Vがディジタル回路のシステム制御を決定的に支配。そこに-12Vも関与・・・
 結果は単純な2次側整流部のコンデンサだった。それでも再現性、中途状態の記憶そしてドリフトなどの謎。コンデンサの劣化はこんなにも厄介。また、50~60Hzの整流と推定50kHz? の高周波域でコンデンサに求められる特性の厳しさを実感。

 絶望的に見えても、例えば入り口の故障か、出口に近い方かなど個別に回路を観察、分析すると希望は残っていた。作業記録ノートを活用。やみくもに作業しても混乱する。

 本体に組み込んで動作電流の測定は物理的に面倒。しかし、単体テストで負荷電流変えて、整流部の電圧変化を知れば、それで推定できる。 -12Vは 多分0.5Aくらい。LM350の発熱はごく僅かだろう。

 早い段階からオシロを使うべきだった? もっぱらテスターに頼った。それには理由がある。コモン・グランドの件を無視できないのがスィッチング電源。今回はAC電源で動作する測定器は使い難いと実感。
 小型で電池動作のテスターは、人体への感電を回避、安全に最大の注意すれば・・・ 随分と役立った。このテスターですが、いろいろ種類があって選択には迷います。ここでの体験からは、
 ・音で知らせてくれる導通ブザー機能
 ・DMMの持つオートレンジ機能、極性も自動で処理する物
などがおすすめです。

 ネット上に何でも情報はある、そんなに簡単ではありません。
HP社の製品は確かに取説のPDFを見つけられます。でも、英語で検索する方が確実です。このオシロの場合ディスプレーと電源は社外品なのでテストのやり方は書いていますが、修理は「ユニット交換」だけです。
 このPDFも有志が複写して残した物が多く、メーカの正式ではありません。スキャンの分解能不足で十分情報が得られません。

 スィッチング電源の故障修理の関連もありました。一般論と実例の紹介など。これらの学習は役立ちます。気を付けるとしたら、ストレートに実行すべきか? 幾つもの無駄な作業をやりました。下手をすると面倒な回復困難に陥ることもありそう。基板のパターンを
決定的に破壊するとか。
  AT, ATX系電源の図面もありました。しかし、30年も過去の物に参考になる物は期待できません。フォト・カプラ経由で2次側から1次側へフィードバック、これも多数派ではない?

 手持ちのパーツが豊富かどうか、これも結果を左右します。いちいちパーツを購入していたらネット通販が便利としても、実際には面倒です。
 ネットではジャン測だけでなく、海外の格安品、その新品がどんどん優秀になっています。方式もガラリと革新的な物が出ています。よくよく検討しなければ・・・

Tiny SAから900MHzでオシロを

 事のついでにHP54510A, 1GSa/s 250MHzのオシロスコープの挙動を見ます。
nanoVNA は300MHzまでなので、ここではTiny SAの High Band outを利用します。
結果は以下のように波形も見えますが、周波数も妥当な読み取りと云えるでしょう。

本格的な周波数カウンターと違って判断の難しい表示です。900MHzと知っていて見れば妥当? 仕様は250MHz帯域のオシロなので、これは上出来・・・

 次はTiny SA, High Band outの周波数設定画面です (最大は960MHz)

 このオシロは入力部にON/OFF可能な50Ωを内蔵。T型のコネクターで外付けするよりリターンロスが少し良いです。

 次の画像はカーソルリードアウトで周波数を推定。ちょっと設定が特殊で2波形分を計測して450MHzと表示、900MHz測定として十分でしょう。


 本格的な周波数カウンターでも、波形を見ないで沢山並んだ数値だけで満足できますか? 波形を正確にとらえられるのは250MHzまでの仕様ですが、こういう芸当も可能だと知っていれば、このオシロの用途は広がると思います。

 HP54510AはDSOとしてリアルタイムの1Gsa/sを実現しだけでなく、複数のデータ収集モードを備え、ディジタル式の問題点を克服する工夫が見られます。


nanoVNAでオシロスコープの挙動を見る

 オシロスコープの限界に近い周波数での応答を調べています。
nanoVNAからは STIMULUS-->CW FREQでキャリアーを出力。
数値キィーパッドから周波数を指定します。


 スミスチャートのプロットは出ないようにDISPLAYを設定。
周波数を表示できるオシロスコープの限界点のようです。



nanoVNAのキャリアー出力は300MHzまで。ネット・アナとしては1.5GHzまで。高調波を利用するのでキャリアーは出ません。

このオシロスコープ (DSO) の仕様は1GSa/S, 帯域幅は50MHzです。265MHzで周波数が読み取れるというだけ。この高域まで正確な波形を観測できる訳ではありません。これには個体差もありそうです。

PIN ダイオードでAM変調波

  高周波切換器でもメカ的な接点でなくPIN ダイオードの特性を利用した物は高信頼性が得られます。本来の使い方でなく特殊な半導体の別の面を観察してみましょう。

 実用ではなく実験的な例です。nanoVNAのCW FREQ.  5MHzを利用します。変調用の低周波はDC-BIASを簡単に重畳するため、OFF-SET電圧を付与できるFunction Generatorを組み合わせました。オシロスコープの入力は50Ωで終端しています。

オシロスコープの画像はサイン波 (1kHz)ですが、ひどい過変調です。DC-BIASの設定が不適切でPIN ダイオードの特性をうまく補整できていません。

これは搬送波としてCW-FREQ : 5MHzを設定したnanoVNAの画面です。


次は三角波なので過変調でクリップされた部分と同時にPIN ダイオードの非直線性が鮮明に見えます。

実用的な AM変調回路には不適格のようですね、残念ながら。それでも複雑さを受け入れるならNegative Feedbackで補整は可能でしょう。

方形波では過変調も非直線性も判別が困難です。

むしろ、高周波の切換器として特性が鮮明です。


nanoVNAでハンディ機のアンテナを見る

 nanoVNAの素晴らしい所は1ツの端子の内側に精密なブリッジを内蔵して発振器の出力と受けた信号を分離。さらに、それら2ツの信号の位相差を分析できます。

 アマ無線用の小型でシンプルなアンテナの特性をスミスチャート上で見ます。
1200MHz用のアンテナ、位相をシフトして垂直ダブレットにマッチングしています。

1200MHz anttena and nanoVNA

目的の周波数にマッチングしてますが、50Ωからずれています。
 DISPLAY-->TRACE-->TRACE3はOFF (非表示)にしています。

スミスチャート、1200MHz Ant.


5倍高調波を利用、フル・スパン 1500MHzまで。ここでは威力を発揮します。


 430MHzの方はズレがひどく380MHzくらいに共振点があるようで、目的の周波数ではインピーダンスもとんでもない値。ハイパワーだと送信用の終段素子が反射で壊れるかも。


 このアンテナは1/4波長のアンテナをコイル状に巻いた短縮型式です。
実はちょっとした改造の経緯がありました。


最初は硬質ゴムで被覆。使った人たちの感想ではゴムを除去した方が飛びが良いとのこと。つまりゴムの材質 (黒色用カーボンを含有?)に支障があった。効率はともかく、この時点ではマッチングは取れたかも知れない (メーカーの製品)

 ゴム被覆を取り除くと確かに輻射は良くなります。バネ状金属のむき出しは良くないので熱収縮スリーブを被せて現状です。コイル状のエレメントを引き延ばして、または、少し切り縮めるとマッチングするでしょう。コイルを引き延ばす方が実効長に有利です、やや大きくなるけれど。

 同じ特性をUSB接続でコンピューター画面で見ると以下のように鮮明です。


 次はWide Band Receiver (0.1--1300MHz)に付属のアンテナ
アンテナの根元にローディング・コイルがありそうです。


マーカーはありませんが、150MHzに共振点があります。高い方にもワイドに凹みが現れています。スミス・チャートは奇妙に歪んでいます。マッチング回路の影響かも。


ざっと見た感じでは144MHz,  430MHz兼用のアマ無線用ですね。これで120---135MHz帯の航空無線を受信するのは苦しいです。小型化を別にして専用の垂直1/4波長アンテナか、欲張って1/2波長の垂直ダブレットにすれば、感度は数段良くなるでしょう。
 Wide Band Receiverには目的 (周波数帯域)別にアンテナを工夫する、そんなときの評価に役立つnanoVNAです。

 なお、この広帯域受信機には大きい磁気ループ・アンテナを組み合わせてみました。8の字形指向性の強い物で、やや扱いが面倒です。しかし、工夫すれば混信を回避したり、高感度で受けられたりできます。角度次第で水平/垂直の両方の偏波面にも対応できます。